さよなら明日香 その1
抱き合っていた裕樹と明日香は、オーナーの呼ぶ声に素早く身体を離し体制を整えた。
居酒屋のアルバイトの僅かな休憩時間、こうして二人が一緒に休みがとれた時には
オーナーや他のバイト達の目を盗み、休憩室でキスをしたり抱き合ったりしていた。
誰かにばれないかと二人はびくびくしながらも、ちょっとしたスリルを楽しんでいた。
二人はアルバイトとしてこの居酒屋に同じ日に入店した。
アルバイトの初日、緊張していた裕樹は店の入り口の前で大きな深呼吸をすると、
意を決して自動扉の前に立った。
自動扉が開くと、客としてきた時とは違い店には客は一人もいない。
従業員らしい女性がモップで床を拭いている。
女性は裕樹に気付くと、笑顔で近付いてきて、
「君、新しくバイトで入ってきた子だよね。よろしくね」
そう言うと、こっちこっちと手招きすると、器用に椅子の間を縫って奥に入っていった。
裕樹はその後を慌ててついていく。
「君、名前なんて言うの?私は福永香織」
福永さんは振り向いてそう言った。
「白石裕樹です」
「何才?」
「二十歳です」
「若いなぁ、若いっていいねー。うん。いいね」
のちのちわかったことだが、福永さんもまだ二十歳だ。
「新しくバイトに入るの、あなたともう一人いるの。
少し前に来て中で待ってる。すごくかわいらしい子よ。
そうそう、ここのバイトに同期ではいった子達は付き合うって伝説があるのよ」
「そうですか」
裕樹は緊張でそれ所ではなかった。
「あっ、信じてないな」
「いや、そんなことないです」
「じゃー、付き合う気あるんだ」
そう言うと、福永さんはにやっと笑った。
裕樹は何も言い返せず、苦笑いをした。
福永さんは従業員専用扉を開けると、部屋の中にある椅子を指差して、
「もうすぐオーナーくると思うから、そこで座って待ってて、いきなり口説いちゃだめよ」
と笑いながら言うと、
「じゃあね」
と手をひらひらさせるともう片方に持ったモップを軽く突き上げ、
「よーしやるか」と言うと、又作業に取りかかった。
裕樹は福永さんから部屋の中に目を移すと、途端に笑いが込み上げてきて、顔が崩れる。
裕樹は部屋に入り、鞄を足下に置き椅子に腰掛ける。
と、そこで始めて対面の椅子に女の子が座っていることに気付いた。
それが明日香だった。
明日香は裕樹の顔をじっと見ていた。裕樹は照れくさくなって俯く。
「福永さんっておもしろい人ですね」
裕樹が恐る恐る明日香に目を遣ると明日香はニコニコ笑っている。
「そうですね」
「福永さんに伝説聞きました?」
「うん」
「じゃー私たち付き合う事になるのかな」
明日香は堪えきれず笑い出す。
裕樹は何も言えず、下手な苦笑いをしている。
「知ってます?この店開店したのって一年ぐらい前なんですよ。伝説にしては短いスパンですね」
そう言うと、明日香はまたくすくすと笑い出す。
そこで、オーナーが入ってきた。
「おっ、なんだか楽しそうだな」
「はい」
明日香はそう言うと、ねっ、と裕樹に目配せをする。
「まっ、仲が良いってのはいいことだ。」
オーナーは笑顔でうんうんと二度頷いた。
「さて本題に入るけど、見ての通りこの店はチェーン店のようにだだっ広くはないけど、
週末には結構お客さんが来るし、忙しいと思うけど、その辺は面接でも言ったから大丈夫だね」
オーナーは二人を見て、二人が頷いたの確認すると先を続けた。
「と言っても、片意地を張らず、楽しんで仕事してくれたらいいからね。
ここのバイトの子達はみんないい子だから、なんでも聞くといいよ。
それに何かあったら僕がいるからね」
オーナーは胸を張る。
「ここは君達を含めてバイトは9人いて、それに僕と僕の嫁さんの総勢十一人。
この人数で精一杯ってとこかな。
えっと、白石君には、主に調理場を村上さんは接客を担当してもらおうと思ってる。
今週いっぱいは慣れるように徐々に仕事を覚えていってほしい。
福永君は僕がたっぷりしごくからね」オーナーは笑顔で言った。
二人はその日、初めての仕事に四苦八苦しながらも、充実感で一杯だった。
店の人達はみんなイイ人ばかりで、二人に接客方法や料理の下準備の仕方、
その他の雑事を丁寧に教えてくれた。
店が深夜零時に閉店すると、後片付けをすまし、その後簡単な歓迎会が催された。
奥さんが予め残しておいた料理をテーブルに並べ、
オーナーはカクテルをシャカシャカ作り出しみんなに振る舞った。
今日来ていなかった人達も数人やってきてわいわい飲んで騒いで簡単な自己紹介をすました。
歓迎会は一時間半程で深夜と言う事もありお開きになると、
みんなほろ酔い加減で三々五々帰っていった。裕樹もオーナーと奥さんに挨拶をして店を出た。
すると店の前に原付きを押す明日香がいた。
明日香は裕樹を見ると微笑んだ。裕樹は明日香に近付き「どうしたの」と声をかけた。「今日、飲むとは思わなかったからバイクできたの、でも家近いから押して帰ろうと思って」
「店に置いていったら?オーナーに話してきてあげようか」
「ううん、いいの。ありがと。明日学校あるから、バイクで駅までいかないと行けないから」
「駅ってそこの?」裕樹は駅の方角に指をさす。店の近辺には駅がある。
「○○電車の××駅のほう。あの沿線上に学校があるんだ」
「そっか。じゃー遠いね」
明日香は全身に力を入れると、バイクを押し始めた。
「押していってあげるよ」
裕樹はそう言うとバイクの横に足早に近付くとバイクを押し始めた。
「いいよ。大丈夫だから」
明日香は困った顔で言った。
しかし、裕樹も一旦言った以上引く事も出来ず「大丈夫だから」と、強引にバイクを押した。
「ありがと」
明日香は微笑んでそう言うと、バイク押していた手を引いて、
バイクの座席の後部に手を当てて押しはじめた。
「歓迎会では白石君と喋れなかったね」
「みんな、次々質問してきたから」
「うん。でも、みんなイイ人だね。すごい楽しかった」
「うん」
「それにオーナーの作ってくれたカクテルおいしかったね、お酒弱いんだけど結構飲んじゃった」
「大丈夫?」
「うん。大丈夫」
街頭に照らされた明日香の頬の色はほんのりと赤らんでいる。
「福永君って大学生?」
「違うよ、フリーター。村上さんは学校て言ってたから大学生?」
「そう、二回生」
「そっか」
「白石君って彼女いるの?」
裕樹は驚いて明日香を見た。明日香はどうしたのと言う感じで裕樹を見つめる。
裕樹は前に向き直って答える。
「いな、いよ」
慌てて答えたせいで、少し噛んだ。
「そうなんだ。私もいないんだ。周りの子達はみんないるんだけどね」
話している内に明日香のアパートの前に辿り着いた。
明日香は裕樹に向かってバイバイと手を振る。裕樹も恥ずかしかったけど手を振った。
二人はそれから二か月後に付き合い出した。
どちらも互いに好意を抱いていたが、踏み出せずにいたところに、
福永さんと裕樹と明日香とで飲みに言った時に
「あなた達ホントは好きなんでしょ、付き合っちゃいなよ」と福永さんは二人に迫り、
二人はお互いの顔を見合わせて赤ら顔になると、
裕樹は意を決して「付き合おっか」と明日香に言うと、明日香は「うん」と頷いた。
福永さんは「やった。伝説の力はやっぱりすごいね、おめでとう」と言うと、
明日香を裕樹の隣の席に行かせ、二人の顔を交互に見て、幸せそうに微笑んだ。
裕樹はその日、明日香をアパートまで送るために初めて手を繋いだ。
手を繋ぐだけでも、お互い緊張していた。
会話もないまま明日香のアパートに辿り着くと、裕樹は手を離そうとするが、
明日香は握ったまま離さない。
「白石君。さっき、酔ってなかったよね?」
裕樹は隣にいる明日香を伺い見る。
横にいる明日香は裕樹よりひとまわり小さく裕樹を見上げている。
頬は赤らんでいて、瞳は微かに潤んでいる。その姿がとても愛おしくて、裕樹は胸が詰まる。
「酔ってなかったよ」
「じゃあ、ほんとに付き合ってくれるの?」
「うん・・・ずっと好きだった」
明日香の瞳に溢れていた涙がこぼれ落ちる。
「私も・・・」
裕樹は明日香を優しく抱き締めた。始めて女の子を抱き締めた。
その軟らかさに感動し、裕樹は明日香のしっとりとした髪を撫でた。
明日香は裕樹の胸で幸せを感じていた。
二人はその日お互いの気持ちが落ち着くまで抱き合い、気持ちが落ち着くと二人は優しく離れた。
「家についたらメールしてね」
「うん」
言葉がそれ以上続かず、お互い別れるタイミングが掴めない。
すると明日香はもう一度裕樹に抱き着くと、裕樹の頬に優しくキスをした。
「じゃあね」
明日香は裕樹から離れるとバイバイと手を振ってアパートの入り口に入った。
裕樹はアパートの中に吸い込まれていった明日香を呆然と見遣っていた。
裕樹は心の奥にずっと抱えていた、淋しさや虚しさがすっと消えていくような気がした。
これまでの人生で、世渡りが下手な裕樹はずっと後悔を続けてきた。好きな人に告白をした事もなかった。
失う事が恐くて、そのくせ失ったものばかりで、手にしたものは後悔だけだった。
裕樹は自分の家に向かう間ずっと溢れてくる涙を堪えていた。
明日香を抱き締めた全身に残る優しい感覚、明日香の唇の柔らかさの残る頬。
始めて手にしたものの暖かさが裕樹をずっと包んでいた。
次の日には、二人のことは福永さんのおしゃべりのせいで、バイト先の皆が知るところになった。
それから幾日がたち、裕樹と明日香が始めて結ばれたのは一か月後のクリスマスイブだった。
クリスマスイブの日、裕樹と明日香は休みを取った。
クリスマスイブの日はみんな休みたがったが、
「二人の初めてのクリスマスだから二人は休みね」と、福永さんがみんなに言うと、
みんなに冷やかされたけど、快く休みを取らしてくれた。
二人は明日香の部屋でクリスマスイブを過す事にした。
お互いお金がないから仕方がないけど、人の目を気にせずいちゃいちゃできるから裕樹は嬉しかった。
明日香は駅前の評判のケーキ屋で小さなクリスマスケーキを予約していた。
裕樹は明日香がケーキを受け取りに言っている間、
二人で買い揃えた品が入っているスーパーの袋を抱えて店の前で待っている。
「おまたせ」
明日香が裕樹の腕に飛びつく。
「ケーキが崩れるよ」
「あ、やばい」
明日香は慌ててケーキを平行にすると、今度はゆっくり腕を搦めた。
「幸せだね」
明日香は頭を裕樹の肩にくっ付けて言った。
「うん」
部屋に入ると、明日香は手際よく準備を始める。
裕樹は手伝おうとするが邪魔しているだけに見える。
裕樹はシャンパンをテーブルに置き、それを注ぐ百円ショップで買ったグラスを二つ置いた。
それから、明日香はこまごまとした料理を作り、裕樹もオーナー直伝の料理を一品作った。
二人は料理を食べ終わると、ベッドの上に二人で寄り添って腰掛け、
部屋を暗くして、レンタルして来たビデオを見た。
明日香はさっき飲んだシャンペンで少し酔っているみたいだ。
明日香はテレビ画面をじっと見ている。
裕樹が見つめているのに気付くと、明日香は微笑んで裕樹に凭れ掛かった。
そうしてうっとりとしたなかビデオを見終わった。
「もう一本のほうも見る?」
裕樹は明日香を覗き込んで言った。
「ううん。いい」
裕樹がテレビのチャンネルを換えると、クリスマスドラマをやっている。
明日香は黙って画面を見つめる。二人の間に暫く沈黙が続いた。
「明日香・・・」
「うん、なに?」
裕樹はズボンのポケットから指輪を取り出した。
「これ、クリスマスの・・・プレゼント」
明日香は指輪を受け取ると、目を潤ませる。
「ありがと」
「つけてみる?」
「うん」
裕樹はぎこちないが優しく、明日香の薬指に指輪を通した。
「きれい」
裕樹は指輪に見とれる明日香の頬にキスをした。
明日香はうっとりと裕樹の方に振り向く、裕樹は明日香に口付けをした。
明日香の口が微かに開く。裕樹はその隙間に舌をゆっくり入れる。
明日香は入ってきた裕樹の舌を嘗める。裕樹は少し乱暴に明日香の舌を嘗める。
明日香の唾液が裕樹の唾液と重なる。
裕樹は身体を一層明日香に近付け、手を明日香の胸に近付ける。
服越しに明日香の豊かな胸の感じが伝わる。裕樹は口を明日香の口から離す。
明日香の唾液のついた口がテレビから漏れる光で輝く。
「いい?」
裕樹は聞いた。
「うん・・・あのね、私初めてだから」
明日香は赤らんだ頬をいっそう染めた。
「俺もだから」
そう言うと裕樹は明日香を抱き締めた。明日香も裕樹を抱き締め返す。
裕樹は明日香のニットを脱がせる。明日香は全身の力を抜き裕樹にすべてを任せる。
現われた艶やかな白いキャミソールが裕樹の胸を高鳴らせる。
キャミソールも脱がせると白い下着が現われる。明日香は少し顔を背ける。
裕樹は下着越しに明日香の胸に触れ、顔を背けた明日香の口にキスをする。
明日香は今度はしっかりと裕樹のキスに呼応し、積極的に舌を搦めてくる。
裕樹は口付けをしながら手を明日香の背中にまわし、下着を取ろうとするが上手く外れない。
明日香は裕樹から口を離すと自ら下着のホックを外した。
ホックが外れた下着は簡単に取れ、明日香の胸が目の前にあらわになる。
テレビから漏れる明滅する光が明日香の美しい胸を彩る。明日香は目を瞑る。身体は微かに震えている。
裕樹は明日香の胸をゆっくりと触った。
指が微かに明日香の乳首に触れた時、明日香はビクッとする。
明日香の胸を手のひらで覆い、裕樹は再びキスをする。
明日香は微かに目を開く。明日香の吐息が漏れる。
裕樹は明日香を優しくベッドに寝かせ、明日香の首筋を嘗める。
そのまま徐々に下に行き、胸を嘗める。片方の胸を手で乳首を中心に触る。
そして、乳首の周囲を嘗め、乳首の先端を嘗めた。
「はぁっ」
明日香の声が控えめにもれる。
裕樹は触発されて。乳首を嘗める。乳首がだんだんと固くなってくる。
裕樹の舌の動きに乳首が反応する。裕樹は明日香の顔を伺う。
明日香は口を半開きにして乳首に触れるごとに顔が仰け反る。
「はぁ・・・・はぁっ」
明日香の吐息とも喘ぎ声ともつかぬ声が、テレビから聞こえる微かな音を隠す。
裕樹は明日香のスカートを捲り上げ、あらわれた下着を見る。かわいらしい下着に興奮する。
裕樹は下着越しに明日香の陰部を触る。
「ゆうき、ゆうき」
明日香は裕樹の名前を呼ぶ。裕樹は明日香にキスをして舌を入れる。明日香も舌を搦める。
裕樹は明日香の下着の中に手をゆっくりと入れる。明日香の柔らかい陰毛に手がかかる。
キスをしている明日香の舌の動きが緩慢になる。裕樹はそのまま明日香の陰部を触る。
「ゆうき!」
明日香は懇願するように言った。
「明日香好きだよ」
「はぁっ、はぁっ、うん、私も裕樹が好きだよ」
明日香の陰部は少しだけぬれている。初めて触る女性の陰部に裕樹はどうしていいかわからない。
ただ裕樹は明日香の陰部を見たくなる。明日香の全てが見たい。
裕樹は明日香のスカートを外す。するっと足から抜ける。
裕樹は続けざまに下着に手をかけ一気に脱がすと、明日香の薄い陰毛があらわになる。
明日香は足を閉じている。裕樹自信もすべて脱ぐ。股間は既にそそり立っている。
裕樹は明日香の太ももに手を当て、押し広げる。明日香の抵抗も僅かで、足は開く。
暗闇の中でテレビの光が明日香の陰部を裕樹に見せる。
「はずかしいよ」
明日香は弱々しく言った。
裕樹は明日香の陰部を優しく触る。知識を総動員して気持ちがイイだろうところを触る。
明日香に気持ちがイイか聞きたかったが恥ずかしくて聞けない。
だから、明日香の僅かな反応を逃さぬように触れる。
陰部を優しく触れると明日香は息遣いが少しづつ激しくなる。
裕樹は明日香の太ももを嘗める。明日香はビクッとする。
でも陰部は恥ずかしさから嘗めることが出来ない。
裕樹はパンツも脱いで体制を替え明日香を抱き締める。
明日香の太ももには裕樹の勃起した性器が当っている。裕樹はキスをして「いい」と囁く。
「うん」
裕樹はまた明日香とキスをして、用意していたコンドームをつける。
そして、裕樹は明日香の陰部に性器をあて、陰部を擦ってみる。
「あっん、あうっ」
身体が仰け反る。
「いくよ」
明日香は返事の代わりに裕樹にキスをし激しく口を吸う。
裕樹は性器を明日香の陰部に向けて差し入れる。意外な程、するっと先端が入る。
「痛い!いたいよ」
「明日香、大丈夫」
明日香の瞳から涙が溢れ出る。顔が歪み下唇を噛んでいる。
「どうしよう」
「ゆっくり・・・ゆっくり・・・」
裕樹はゆっくりと性器を入れていく。性器は抵抗もなく差し込まれていく。
「いたいよ。裕樹、いたいよ」
明日香は我慢できないのか、涙がどんどん溢れ出る。その様子を見た裕樹の性器は萎みだす。
「今日はもう・・・やめよう」
裕樹は性器を抜き、明日香の頭を撫でた。
明日香は情けない顔をしているが、裕樹はそんな姿が愛おしくて抱き締めた。
「ごめんね」
「あやまることなんかないよ」
「裕樹のことすごい好きだよ」
「おれも明日香のことすごい好きだよ」
二人はキスをした。そして、二人は裸のまま抱き合って眠った。
それから、二人は半同棲のような形でその後の数カ月愛を育んだ。
それは素晴らしくて、優しくて、これがずっと続くものだと裕樹もそして明日香も思っていた。
もし、自分の気持ちを言葉なしにでも伝えることができたなら、
相手の不安な気持ちを零すことなく感じるできたなら、
大事な一言を自尊心を隠し言うことができたなら、
悲しく危険な言葉を吐かずにすむことができたなら、二人の愛はずっと続いたに違いない。
この世界ではお互いが思い合っている幾つもの二人が別れているのだろう。
その度にそれらの二人は裕樹や明日香のように傷付いているのだろうか。
その日の朝、明日香はいらいらしていた。
裕樹は昨日の夜、久しぶりに明日香のアパートにやってきた。
久しぶりの訪問を裕樹は楽しみにしていたが、その夜、二人がした事は喧嘩だけだった。
裕樹はふて腐れて床に寝て、明日香はベッドで寝た。
けだるい朝、裕樹と明日香はアパートから出ようとしていた。
明日香は大学へ、裕樹は裕樹の家へ帰る。
裕樹が扉を開けようとすると明日香が呼び止めた。
「ちょっとまって、裕樹」
裕樹は怪訝に振り返る。
「何?」
「ちょっとこっちに来て」
明日香はテーブルの前に座っている。
裕樹は不安な様子で部屋に戻り、明日香の前に座る。
「明日香、時間大丈夫なの」
明日香はその問いには答えない。
「裕樹、将来のこときちんと考えてる」
裕樹は胸が詰まりそうになる。最近の明日香は大学の三回生になり、就職活動を始めた。
だからか、大学から帰っても機嫌がよくないことが多い。だからこの話にはよくなる。
昨日の夜もこの話から喧嘩になった。
「うん、まあ」
裕樹は曖昧に答える。
「それじゃ、わからないよ。いつも、ごまかしてばかり。これからのこと本当に真剣に考えてるの」
裕樹は俯いて黙る。
「・・・もう、いいよ・・・遅れるからいくね。今日は遅くなるし、
疲れてるから裕樹は自分の部屋に帰って」
明日香はそのまま振り向かず出ていった。
裕樹は俯いたままだった。大事な言葉が出ない。
裕樹は明日香の部屋から出て鍵を閉める。自分の部屋まで自転車を漕いで帰る。
力なく漕がれる自転車はふらふらと現実を進む。
部屋に辿り着いた裕樹は濁った空気の部屋に入る。
ベッドに倒れこみ、ベッドの側にある本を壁に投げ付けた。
裕樹は会計の専門学校を卒業してフリーターになった。
周りのみんなが就職していく中、裕樹は出遅れた。
先生に頼るのが恥ずかしくて、先生には強がり、そのまま行く当てもなく卒業した。
裕樹は専門学校で簿記一級と税理士の簿記論、財務諸表論の資格を取っていた。
それこそ、死ぬ程勉強した。でも、その気持ちも何処かで途切れてしまった。
しかし、明日香とであってからもう一度頑張ろうと思っていた。
だから、最近、合間を見ては勉強をし始めた。でも、明日香には言えなかった。
いつなれるとはわからないものを、現実に直面している明日香には言えなかった。
それに、一人で勉強するのはやはり大変で、ブランクを取り戻すのも大変だった。
夢を話すことを自尊心が邪魔をした。「明日香・・・」裕樹は呟いた。
明日香はバイクを駐輪場に乱雑に止め、駅に走った。息を切らせながら電車に乗りこむ。
席に座るとリクルートスーツの乱れを直す。次の駅で見知った顔の男が乗り込んできた。
「よっ、村上」
「おはよう、辻内君」
同じ学科の辻内和史。
「どうしたの、なんか恐い顔してるけど?」
「ううん、なんでもない」
「彼氏とでも喧嘩した?」
明日香はドキッとする。
「そんなことないよ。そんなこと聞くなんて失礼だね」と頭を振った。
「ごめん、ごめん、冗談」
辻内は笑った。
「今日は、何処かの面接?」
「ううん、今日は就職課にいくの」
「そうなんだ。ねぇ、今日の昼、学食で待っててくれない。就活の情報交換しょうよ」
「・・・うん、いいよ。辻内君はこれからどうするの?」
「一個面接入ってるから、一時ぐらいにはいけると思うから、ついたらメールするよ。
それじゃ俺次で降りるから」
辻内は手を振って電車を降りた。明日香も手を振り返す。
これから戦場に向かう同志に合ったことで明日香はなんだかやる気が出てきた。
「よしっ」と心の中で、拳を握った。
就職課に言った後、明日香は学食に向かった。
席に座ると、直ぐに中の良い大崎あゆみが明日香を見つけ駆け寄ってきた。
「明日香!」
明日香は声のするほうに振り向いた。
「あゆみ」
あゆみは明日香の肩に捕まると、明日香の顔を覗き込んだ。
「うーん。どうした。元気がないぞ」
「そんなことないよ」
「就活上手くいってないの?それなら心配しないで、あたしなんか全然だから」
「大丈夫だよ。しんどいことはしんどいけどね」
「うっ、とすると、裕樹のことか」
明日香は俯く。
「どうしたのよ。なにかあった」
そう言うとあゆみは明日香の対面に座ると、身を乗り出した。
「何もないよ」
「そんなことない。いいなさいよ」
「もう。いいよ」
「い・い・な・さ・い」
あゆみの聞きたがりの執念は収まりそうもない。仕方なく明日香はことの成りゆきを喋る。
「そう言うことか」
あゆみは何度か頷く。
「就活がらみで良くある話ね。現実に直面した明日香と、そうじゃない裕樹」
「最近の裕樹の姿を見てるとイライラするの」
「明日香みたいなおっとりした子まで、イライラさせるとは就活恐るべし」
あゆみは溜め息をついて首を振った。
「で、なに、明日香と裕樹は住む世界が違うとでも言うの?」
「そんなことないよ。そんなことないけど・・・」
「明日香は裕樹のことフリーターだって知ってて付き合ったんでしょ。
それでも裕樹のことが好きだって。明日香は裕樹のいい所一杯知ってるんでしょ」
「ねぇ、お二人さん何喋ってるの」
辻内が突然二人の間に割って入る。
あゆみは辻内に向けて、しっ、しっと手を振った。
「何だよ、俺はこれから村上と就活の情報交換するんだよ」
あゆみが明日香の方を向くと、明日香は頷いた。
「あっ、そ。じゃあね」あゆみは辻内にそう言うと、
明日香に向かって「ちゃんと話しなくちゃダメだからね」と言って立ち去った。
あゆみは遠目で見える明日香と辻内に言い様のない不安を感じた。
あゆみはバイト先以外での唯一の裕樹と明日香の共通の友達だ。
裕樹はあゆみによく二人の事を相談していた。
あゆみの聞き上手もあって、話下手の裕樹も何でも話せた。
裕樹の夢について知っているのも、あゆみだけだった。
裕樹はもちろんそのことを明日香には言ってはダメだと釘を刺しておいた。
あゆみもあゆみで口は固い。だから、二人のことを影でやきもきしながら応援していた。
でも、今日の辻内の姿を見た時から不安になった。
「あゆみ・・・」でも、あゆみはかたい子だから。
なんせ裕樹と出会うまで、付き合ったことすらないんだから。
そう思うと、取り越し苦労かと溜め息をついた。
「村上、さっき大崎と話してたの、やっぱり彼氏のことだろ」
「・・・うん」
明日香は苦笑いで答えた。
「やっぱり、朝から様子おかしかったし。
でも、村上みたいな可愛い子を悲しますなんて何考えてんるんだ」
明日香は頭を振る。
「私が悪かったの。相手の気持ちも考えてあげないと」
「そうかなぁ。お互いの気持ちを正直に言い合えてないのって、本当に心が通じ合っているのかなぁ」
「そんなことないよ。ちょっと彼の気持ちがわからなくなっただけだから」
「それだよ、男って、口にしないだけで、色んなこと考えてるから」
「・・・そう」
「よし、わかった。今日相談に乗るよ。
俺だったら村上の彼氏の気持ちもわかるだろうし、就活中の村上の気持ちもわかるから」
「えっ、いいよ。大丈夫だから」
「いいから、いいから、こういうのは話を聞いてもらってすっきりするのがいいんだって。
なっ。よし今日飲みに行こう。飲んだほうが話しやすいだろうし」
「えっ、でも・・・」
「今日、××駅に六時に待ってるから。ついたら、メールして。
じゃっ、これから、ちょっと用事あるから」
そう言うと、辻内は立ち上がった。
「あっ、待って・・・」
明日香が声をかけた時にはもう辻内は立ち去った後だった。
「どうしよう」
明日香の脳裏に裕樹の顔が浮かんだ。
罪悪感を抱えながら明日香は××駅前に来ていた。
「相談するだけだから」そう心に言い聞かしていた。
辻内にメールを打つ。メールの返事はすぐに来た。すぐ側にいるらしい。
不意に手を引かれた。吃驚して振り返ると、辻内だった。
「大丈夫、人波みにさらわれそうだったよ?」
「あっ、辻内君」
明日香は手を握られたことに深い罪悪感を感じた。
明日香は「そこにいたんだ」と大袈裟に手を振る拍子に手を離した。
辻内はその行為に感心がないように言う。
「行き付けの店があるから。さ、行こう」
明日香は歩き出した辻内の後ろを慌てて歩き出した。
「どうしたの、あゆみ」
あゆみは二人の姿を見ていた。あゆみの友達があゆみの見ているほうを向く。
「あれ、あの子、村上さんじゃない」
友達はあゆみに同意を促した。
「うん・・・」
あゆみはどうなってるのか、考えを巡らした。
「村上さん、辻内と付き合ってたんだ。知らなかった。
あれ?でも辻内って彼女いるんじゃなかったっけ。別れたのかな。でも、美男美女だからお似合いだね」
あゆみは呆然としている。
「あ・ゆ・み!聞いてるの」
「う・・・うん」
「あの二人付き合ってるの知ってた?」
あゆみは我に帰って頭を何度も横に振る。
「付き合ってないって!就活の相談だよ」
声が震えている。
「じゃあ、今日お持ち帰りか、辻内プレイボーイだし」
友達はどこか羨ましそうに言った。
「そんな・・・」
あゆみは絶句する。
「ちょっと、行ってくる」
あゆみは明日香の所に駆け寄ろうとするが、友達が腕を引っ張る。
「止めときなよ。野暮だよ。二人で飲みに行くんだから覚悟の上だよ」
あゆみは一気に血の気が引く。「そんな」
「ごめん、やっぱり、行ってくる」
友達の腕を振払う。しかし、振り向いた時には二人の姿が消えていた。
二人の消えたほうに駆け寄るが、何処にもいない。
「どうしよう」焦りだけが募る。
携帯を取り出す。裕樹に知らせなきゃ。でも、指が止まる。
知らせてどうなるんだ。不安にさせるだけかも知れない。それにただの相談かも知れない。
それなら、よけい事体を悪化させるだけだ。あゆみは逡巡していた。
でも、やっぱり知らせなきゃ。数回の呼び出し音の後。
「もしもし」
「もしもし!あゆみだけど」
「うん、どうしたの?今からバイトだから」
「明日香!明日香が!」
「明日香がどうしたの?」
「あのね、今××駅前にいるんだけど、明日香がうちの大学の辻内っていう奴と一緒に歩いてたの」
裕樹は手が震え、胸が締め付けられる。
「・・・そう」
「そうって!!何いってんのよ!!大変な時でしょ!!辻内はプレイボーイで有名なんだから!!」
「そうなんだ・・・これからバイトだから切るね」
そう言うと、通話はいきなり切れた。
「裕樹!!」
あゆみは切れた携帯に向かって叫ぶ。周囲の人達が何事かとあゆみを見る。
あゆみは直ぐにリダイヤルをする。しかし、電源は既に切られていた。
「どうしてよ・・・」
あゆみは泣き出した。
「どうして・・・」
裕樹は感情を失ってしまう。もう何も考えたくなかった。また一人になっただけだ。
明日香と出会う前の日のように全てが投げやりになる。
裕樹はバイト先につくと、店内にいた福永さんに軽く会釈だけして、通り過ぎる。
福永さんはすぐに裕樹の変化を感じ取って、裕樹のあとを追った。
「裕樹」
裕樹は振り向く。その顔に感情はない。
「裕樹どうしたの、何か合った」
「いや、なんでもないです」
裕樹が振り切って行こうとしたら肩を捕まれ無理矢理振り向かされた。
「明日香となんかあったんだね。そうでしょ」
「関係ないでしょう」
裕樹は投げやりに言った
その刹那、平手が裕樹の頬に飛んだ。
「関係あるわよ!!裕樹と明日香引っ付けたのあたしなんだから!!
あなた達がハッキリしないから背中押してあげたんだから!!」
福永さんはうっすらと涙を溜めていた。
裕樹はあゆみとの会話の内容をすべて話した。
「なにやってんのよ!!早くいかなけゃ!!」
「でも今日バイトだし」
「バイトなんてどうでもイイでしょ!明日香のほうが大事でしょ!!」
そう言うと福永さんは裕樹の袖を引っ張って店の外に連れ出した。
「早く行きなさい!!」
裕樹はうんと頷くと駅に向かって走った。福永さんは裕樹の後ろ姿を見ながら
「明日香、明日香、裕樹を信じて」と祈る。
駅につくと裕樹は携帯であゆみに掛ける。
「裕樹!!もうなにしてんのよ!!」
涙声だ。
「そこにすぐ行くから!」
「うん。わかった。早く来て」
「村上、いい店でしょここ」
「うん」
明日香はオーナーの店の雰囲気のほうが好きだが、この店の雰囲気も素直にいいなと思った。
「おいしいカクテルあるから」
「あっ、でも、今日は飲まないつもりだから。それに、お酒そんなに強くないし」
「大丈夫、すごくおいしいから、それに帰りは送っていってあげるよ」
明日香はその言葉に裕樹に見られたらと不安になる。
「お待たせ致しました」
給仕が赤いカクテルを差し出す。明日香はそれを不安げに受け取る。
「さあ、飲んでみて」
「うん」
明日香はカクテルに口をつける。すごくおいしい。
オーナーのカクテルも格別だけどこれもすごくおいしい。
「おいしい」
素直に感想が口から出る。
「でしょ、だから言ったじゃん」
その後明日香はカクテルを数杯飲んだ。
一度トイレにたったが足下のふらつきから相当酔っているようだった。
でも、意識はしっかりしてるから大丈夫だと思う。
辻内は明日香の話を親身になって聞き、明日香もお酒が入っているのも相まって、
明日香と裕樹の深い部分まで話していた。
辻内はその都度適確なアドバイスをくれる。そして、呟いた。
「やっぱり、フリーターには、俺達の苦しさや辛さがわからないんだな」
明日香は俯いた。
「俺は村上の彼氏が許せないな。逃げてるんだよ。何もかもから。
俺だったら、村上をこんなに苦しめない」
明日香は淋しそうに微笑んだ。
「私そろそろ帰るね」
明日香はそう言うと立ち上がったが、ふらっとその場でよろめく。
辻内はすぐに近寄って来て、明日香を支えた。
「こんなに酔ってちゃ帰れないよ。俺の家近くだから、そこで酔い覚まそうよ」
「いいよ、帰れるから」
「いや、だめだ、こんな状態では帰せない」
辻内はそう力強く言うと、素早く会計を済ませ、明日香を支え出口に促した。
「あゆみ!!」
「裕樹こっち!!」
裕樹はあゆみに駆け寄る。
「この辺で見失ったんだけど」
裕樹は周囲を見渡すが見当もつかない。
「明日香の携帯に掛けてみたんだけど繋がらないの。だから地下にいるのかも知れない。
とにかくこのへん隈無く探してみよう」
「うん」
裕樹は心の中で「明日香!!明日香!!」と叫んでいた。
明日香は辻内の部屋の中にきていた。
「ごめんね」
明日香は辻内が渡してくれた水を飲みながら言った。
「あやまらないでくれよ。俺まで悲しくなるから」
「ごめんね」
明日香は呟くように言った。明日香は水を飲み終えると立ち上がるが、まだ足下がふらつく。
すると辻内が明日香を直ぐに抱きとめる。
「辻内君・・・」
いきなり辻内は明日香にキスをした。明日香は慌てて辻内の顔を引き剥がす。
「いやっ・・・いやっ」
明日香は激しく抵抗する。すると辻内は明日香をあっさりと開放した。
明日香はその場にへたり込み、辻内を見上げると、辻内の瞳に泪が溜まっていた。
「俺、ずっと、村上の事が好きだったんだ。いつも村上の事を見てた。
それで、最近悲しそうな顔をしてるのを見ていて、胸が張り裂けそうだったんだ」
辻内は涙声になる。
「俺だったら、村上の可愛い笑顔絶対消させないって。
村上の話しどんなことがあったって真剣に聞くって・・・」
「辻内君・・・」
辻内は村上の前に座る。そして、明日香を力強く抱き締めた。
「ごめん・・・ごめんね。でも、やっぱり」
「俺村上のこと諦められないよ。村上のことばかり考えていて就活も手につかない」
「ごめん・・・」
辻内の鼻を啜る音が聞こえる。
「俺、村上を抱きたい。君の身体をどうしても愛したい」
「無理だよ」
「それで、俺、新しくスタートきれるから、就活もがんばれるし、
他の人も好きになれると思う」
そう言うと、辻内は明日香に再びキスをした。舌を明日香の唇に這わす。
明日香は顔をしかめ目を閉じる。辻内の舌が明日香の口の中に分け入ってくる。
辻内は自分の唾液を明日香の中に強引に押し込む。辻内の舌が明日香の舌と絡まる。
辻内は手で明日香の服の上から胸をまさぐりはじめる。
辻内はすぐに明日香のニットを剥ぎ取った。
「待って!おねがい!わかったから、わかったから・・・」
辻内は構わずズボンの上から陰部に触れる。
「おねがいだから、もうわかったから、・・・シャワー浴びさせて」
明日香は辻内に対する気持ちがわからなくなっていた。
ただ、こんなに苦しめていることに罪悪感を感じていてる事は確かだった。
辻内は漸く手をはなすと。
「わかった、浴びて来て」
「・・・うん」
明日香は頷くとユニットバスに案内された。
「このバスタオル使っていいから」
明日香はバスタオルを受け取るとバスルームに入っていった。
辻内は明日香がバスルームの鍵を閉めるのを確認すると。万が一の時のため玄関にチェーンをかけた。
明日香は服を脱ぎながら裕樹のことが頭を過っていた。
明日香はそれを振払ってシャワーで念入りに身体を洗う。
辻内は玄関から室内に戻って来て、
昼大学から帰り仕掛けたベランダから室内を写すビデオカメラのスイッチを入れた。
室内には既に三台の盗撮カメラがあるがやはりここは、綺麗な画像を残して置きたい。
危険はあるが今の明日香の状態だと大丈夫だろうと踏んだ。
盗撮カメラはその筋のやつに頼み込んでつけ手もらっていた。
今日の映像を見せるという交換条件つきだ。笑いが込み上げてくる。
まさか村上とやれるとはな。辻内はパンツだけになる。パンツははち切れんばかりになっている。
その時鍵の開く音が聞こえる。辻内はまた顔を巧に変えた。
「・・・いないね」
あゆみは悲しそうに言った。
裕樹とあゆみはいろいろな店を探し回ったが何処にも明日香はいなかった。
「このままあてもなく探していてもしょうがないから、俺明日香のアパートに行ってみるよ。
もう帰ってるかもしれないし」
「うん、わかった。力に慣れなくてごめんね」
「そんなことないよ、あゆみ、今日はありがとう・・・」
そう言うと、裕樹は明日香の家に向かった。あゆみはその後ろ姿をじっと見ていた。
どうしてこんなことに。あゆみは暫くその場に立ち尽くしていた。
裕樹は明日香を探している間中、ずっと明日香が誰かに抱かれて、
自分には見せないであろう明日香の性行為中の顔が何度振払おうとしても脳裏を掠めていた。
明日香以外と性行為のしたことのない自分に比べ、プレイボーイの辻内という奴に明日香が・・・
明日香はバスタオルを羽織っただけのままの姿で辻内の前に現れた。
「綺麗だよ」
「お願い暗くして」
辻内はその言葉を無視して明日香に歩み寄ると明日香を抱き締める。
明日香の胸の感触が伝わる。明日香の身体には辻内のそそり立った性器が当っている。
「辻内君おねがい、暗くして」
明日香は懇願する。しかし、辻内は明日香のバスタオルを無理矢理剥ぎ取る。
辻内の目に明日香の裸体が飛び込んでくる。明日香は座り込み身体を隠して震える。
「おねがい、恥ずかしいから・・・」
「俺は村上の全てが見たいんだ。村上の事を忘れないように。この目に焼きつけたいんだ」
辻内はそう言うと、座り込んだ明日香を抱え上げて、ベッドに寝かせる。
明日香は顔を背け恥ずかしそうに頬を赤らめている。辻内は明日香に濃厚なキスをする。
明日香の舌に自分の舌をからめる。明日香の舌を引っぱりだし強く吸う。
「口開けて」
辻内は優しく囁きかける。明日香は言われた通り口を開ける。
すると口の中に辻内は唾液を流し込む。
明日香は流し込まれた粘った液体に驚き閉じていた目を開く。
「俺の唾液だよ。飲み込んで」
明日香は気持ち悪かったが吐き出すことも出来ず飲み込む。
「おいしかった?」
辻内が優しい笑顔で聞くと、明日香はいやいやと首を振る。辻内は満足げに微笑むと、
明日香の乳首を嘗め始めた。舌先で軽く乳首の先端に触る。
「ああぅ」
その瞬間、明日香の喘ぎ声がもれ、乳首は感度よく立ち上がる。
「乳首立ってるよ。感じてるの?」
「いや・・・そんなこと・・・」
辻内は執拗に乳首を攻め続ける。乳首を吸い、口に含んで舌先で嘗める。
「あぁう。・・・あっ・・あ」
「声出していいんだよ。ここ壁厚いから、隣には聞こえないよ」
「あぁー、いやっ・・・」
「左の乳首のほうが敏感だね」
辻内は執拗に卑猥な言葉を投げかける。裕樹はセックスのときほとんど声を出さない。
始めての羞恥は余計明日香の身体を敏感にさせる。辻内は乳首を嘗めながら村上の陰部に触れる。
「ああぅ・・・あぁ、はぁ、はぁ」
陰部はしっとりとしている。
「村上触ってないのになんでこんなに濡れてるの?」
「いやぁっ」
「ほらここ触られると気持ちいいだろ」
「ううっ。ふぅーん」
「じゃ、村上のあそこ忘れないようにじっくりと見るね」
「いや、いやっ、やめて」
明日香は身体を捩るが辻内が押さえる。辻内は明日香の陰部を弄びはじめる。
「村上のびらびら綺麗だよ。ほら、引っ張るとこんなに伸びるよ」
「お願い、やめて」
「やめてって言っても、クリトリスはこんなに立ってるのに」
そう言うとクリトリスを弄り始める。指先で弾くようにさわり、次に指の腹で強く擦り付ける。
「村上、アナルの周りに毛が生えてるんだな」
「いやだよ、お願い・・・」
辻内はアナルを拡げ陰部から溢れ出た液体を塗り込む。
「ああぅ・・・だめ・・・やめて・・・お願い・・・」
「何をやめて欲しいのか言わなきゃ」
「そんな・・・」
答えがないのでアナルに少し指を入れる。
「いや!お願い、お尻は・・・やめて」
辻内は笑みを浮かべて、また、クリトリスを攻め立てる。
既に明日香の陰部が全てを物語っている。愛液がびしょびしょに溢れていた。
「村上、お前ぬれすぎだよ。そんなに気持ちいいの」
「あぅぅ・・はっふぅうう」
「どうしたの、どうなりそうなの、ちゃんと口に出して言ってくれなきゃ」
「もう・・・あぅ・・・いや・・・はずかしいよ」
辻内はその言葉ににやりとした。
「村上、俺ほんとの村上の姿が見たいんだ。村上がホントに気持ちよくなった、
乱れた顔が見たいんだ。一度きりの関係なんだから全てを曝け出して欲しい」
その辻内の言葉に堰を切ったように、堪えていた明日香の顔は崩れ落ちていく。
辻内は更にまくしたてる。
「声だしていいんだよ。聞こえないから大丈夫、曝け出して」
「気持ちいいよ・・・あぁう、あう・・・いきそう」
その声は先ほどまでのトーンと違った。辻内は更に激しく攻め立てる。
右手で膣に中指を入れ膣壁を擦り、左手でクリトリスを弄る。膣に人さし指も入れる激しく擦る。
「はっ、はっ、はぅううう。だめ、いっちゃう・・・辻内君・・・」
「村上気持ちいい?」
「気持ちイイよぅ!だめ、ホントにいきそう!」
村上は指のスピードを速める。
「あっ、あっ、あっ、あーーーぅん」
「いくときはいくって言わないとダメだよ」
明日香の身体はそり上がり、辻内の指を膣が締め付ける。
「いきそう、いきそう、いっちゃう・・・はぅ、あっああああう!!」
いってしまった明日香は恍惚の表情をしている。村上はそんな明日香に濃厚にキスをする。
明日香も自然とキスを返す。
「村上まだまだこれからだよ。もっと、気持ちよくしてやるよ。
でも、その前に俺も気持ちよくしてくれ」
そう言うと村上は陰茎を明日香の目の前に持ってくる。陰茎はそそり立っている。
明日香はもう言われるがまま陰茎に顔を寄せていた。
「そこの先端に出てる我慢汁を嘗めて」
陰茎の先には液体が滲んでいる。明日香はそれを嘗める。陰茎から舌先に液体の糸が引く。
「うまいじゃん。よくやるの、彼氏のと比べておれのどう?」
明日香は、いやいやと首を振る。
「じゃ、彼氏にいつもやってる村上のフェラテク見せてよ」
明日香は裕樹にやってあげているように陰茎の先端を何度か嘗め、陰茎を加える。
そして、右手で陰茎を擦りながら、陰茎の先を嘗める。
「はぁ、気持ちいいよ。最高だよ」
そう言うと、辻内は仰向けに寝転がった。
天井に向けてそそり立った陰茎を明日香はさっきより激しく動かす。
「はぁ、ホントに気持ちいいよ直ぐにいきそうだ。村上チンポ吸ってくれ」
明日香は言われた通りに吸う。その瞬間明日香の口の中に精液が放たれた。
「うっ」
口の奥にまで届く程いきおいがよく精液が弾け、明日香はむせてしまう。
明日香が口をはなそうとすると、辻内は明日香の頭を押さえつける。
「お願い、全部吸い取ってくれ」
辻内の言葉に明日香は陰茎から残りの精液を搾り出す。
すべて搾り出すと、明日香は陰茎から口を離す。
明日香は口の中に含んだ精液をだそうとベッドサイドにあるティッシュを取ろうとすると、
それを辻内が取り上げる。
「全部飲んで」
明日香はいやいやと首を横に振る。
「今まで一度も飲んだことないの?村上の彼氏は情けないな」
明日香は懇願して首を縦に振る。
「じゃあ、今日は特別な日なんだから飲んでみようよ。ね」
優しくそう言うと辻内は明日香を抱き締める。そして、明日香の顔を見つめた。
情けない顔になった明日香は目を閉じ心を決めて飲み込んだ。
ごくっと喉が鳴る。喉に苦い味と粘り気が残る。
「ありがと、明日香」
そのとき、始めて辻内は明日香と呼んだ。
そして、また愛撫を始める。すると直ぐに明日香の身体が反応しだす。
「気持ちいい、明日香?」
「うん」
辻内は明日香の陰部を嘗め始める。
「いや、汚いよぅ」
「明日香は俺の飲んでくれただろ」
そう言うと激しく嘗め始める。
「あぅ・・・ふぅ・・・あぅ」
その時明日香の耳にブィーンという音が聞こえてくる。明日香が音のするほうを見ると。
それはローターだった。
「使ったことある?」
明日香は首を振る。
「そう、じゃあ、気持ちよくしてあげるよ」
「いや、恐い・・・」
「明日香、俺さっき明日香の口でいっちゃっただろう。だけど、俺明日香の中に入れたいんだ、
これで、明日香が気持ちよくなってくれたら俺も興奮するから」
明日香は目を瞑る。
辻内はローターをクリトリスにいきなり押しあてた。
「あーん。いっ・・・いっいいい」
辻内はピンポイントで攻め続ける。クリトリスに強く押し当て、擦り付ける。
「やだ、はうっ・・・ううううっ・・・壊れちゃう」
明日香の陰部から液体が滲みだす。
一度ローターを切ると辻内は膣に指をを入れチャプチャプと明日香に聞こえるように音をだす。
「明日香聞こえるか、こんなに濡れてるぞ」
「いやっ、お願い言わないで」
「正直になるって明日香言っただろ」
明日香は泣きそうな顔をしている。下唇噛み締めている。
辻内は明日香から溢れ出た液体を指で掬い。明日香の目の前に持っていく。
「これが明日香のだよ。さぁ嘗めて」
明日香は何度も首を振る。辻内はほらっと指を明日香の口につける。
「いやっ!」
「なんだおいしいのに。さぁ俺のも元気になってきた。そろそろ入れるよ」
明日香はもう覚悟はできていた。辻内は明日香の陰部に陰茎を押し当てる。
そして、陰部に擦り付ける。明日香の身体が敏感に反応し仰け反る。
「あーん、あっ、ああああ」
そして、辻内は陰茎を一気に膣に押し入れた。その時明日香は気付く。
「ゴム!!、ゴムつけてないよ!」
「大丈夫だよ外にだすから」
明日香の顔は眉が垂れ下がり、恍惚と不安から崩れる。
「その顔可愛いいよ明日香。ゴムなしは初めてかい?」
不安げに頷く。裕樹とのセックスは安全から何時もゴムをつけていた。
「今日は初めて尽くしだな」
辻内はそう言うと、激しく突き立てる。
陰茎が膣壁に擦れ、激しい突き上げは身体が震えるような気持ちよさが明日香を襲う。
「あっ、あっ、あぅ、あぅ、うううううっ」
「どう、ゴムなしは気持ちいいだろ。彼氏のセックスとどっちが気持ちいい?」
明日香は下唇を噛み締め何も答えない。
「いいなよ。どうせ彼氏にはわかんないんだからさ」
辻内は執拗に聞き出そうとする。
「きもちいい・・・はぅ、あん、あん、はぅ、はぁぁぁぁっぁ」
「どっちかって聞いてるんだよ」
「辻内君だよ・・・もういや・・・聞かないで」
明日香は涙を浮かべながらも快感に震え答える。
辻内はその言葉に興奮して更に激しく突き上げる。
「いや、いっちゃう、辻内君、いっちゃうよ」
「おれもいきそうだ一緒にいこうぜ」
「あっ、あっ、あっ、いきそうだよ・・・ああああああああああ、うふぅーーん」
明日香がいくのと同時に、辻内は陰茎を抜くと、すぐに明日香の顔の前に持っていって顔に掛けた。
明日香は恍惚の表情のまま顔にかっかった精液を購うことなく受け入れる。
辻内は明日香の顔についた精液を明日香の顔に塗りたくると、心底満足そうに笑んだ。
その後辻内と明日香は朝まで何度も抱き合った。何度もする内に明日香は自分から辻内を求めだした。
気が大きくなった辻内は明日香に目隠しをすると、ビデオを手に持ち明日香の全てを写した。
裕樹が部屋の前に辿り着いたとき部屋の明かりは点もっていなかった。
チャイムをならしても明日香はいなかった。
どれだけ待ったんだろう。空が明るくなってきた。
空を見つめていると、カラスが何羽も滑空し目の前の電線に止まる。
カラスは何度か奇声をあげ飛んでいった。
車の音が聞こえてくる。タクシーがアパートある狭い通りに入ってくる。
裕樹は物陰に隠れた。
タクシーはアパートの前で止まり、女性が辺りを伺うように降りてくる。
降りてきたのが明日香だとすぐに気付く。そしてすぐ後に男がニヤニヤ笑いながら降りてくる。
男は明日香にキスをする。明日香はキスをされながら、周囲をしきりに気にしている。
辻内は軽く手を振りまたタクシーに乗りこんだ。残された明日香は足早にアパートの中に消える。
その様子を裕樹はじっと震えながら見ていた。